読書記録『セルバンテス短編集』

積読の解消を図ろうと本棚にある本を適当に取り出して

牛島信明の編訳『セルバンテス短編集』(岩波文庫)を読むことにした。

ドン・キホーテ』で有名なセルバンテスの短編から訳者が4作品を選んでいる。

編訳者が各作品のどこに面白さを感じているかは解説に記されているが、

解説から読むようなことはなく、まずはセルバンテスの語りに乗ってほしい。

 

饒舌なセルバンテスの語りが苦手な人や、

400年前の小説を「古臭い」と感じる人もいるかもしれない。

こればかりは相性というか好みもあるから、

手放しで読んで後悔しない名作と推すことはできないけど、

一度その語りに乗ったら(結末が予想できたとしても)

最後まで圧倒されながら読み進めてしまうことは間違いない。

 

「やきもちやきのエストレマドゥーラ人」

(新大陸で財を成し年老いてからスペインに戻った男は生来の嫉妬深さから

結婚を避けていたが若い娘を見初めて結婚を決めるのだが……)

「愚かな物好きの話」

(自分の妻が真に善良で貞淑な女であるか試したくて仕方がない気持ちに

捕らわれた男が無二の親友に妻を誘惑するように依頼するのだが……)

「ガラスの学士」

(学問を修めて学者として身を立てる野望を持っていたトマスだが、

彼に一目ぼれした女に媚薬入りの果実を食べさせられて……)

「麗しき皿洗い娘」

(裕福で家柄も良い二人の若者が遊学すると見せかけて放浪生活に

出ようとするが旅の途中で麗しき皿洗いの娘の噂を聞き……)

 

4話のうち「愚かな物好きの話」は『ドン・キホーテ』の挿話だが、

恥ずかしながら自分は全く覚えていなくて新鮮な気持ちで読んだ。

基本的に滑稽というか人の愚かしさを描いているのだけれど、

セルバンテスの描く〈ままならなさ〉みたいなのに自分は惹かれる。

やきもちやきのエストレマドゥーラ人は自らの嫉妬深さを自覚していたし、

愚かな物好きの男も妻を誘惑にさらして試す行為が間違っているとわかってた。

自分の行為がどういう結果を招くかを頭ではわかっていながら

それでもそうせずにはいられない哀しさみたいなものがそこにはある。

ガラスの学士は順調に運んでいた人生が媚薬をもられるという不測の出来事で

捻じ曲げられ、望みが果たせたようで果たせていない哀しみを感じる。

ただ、麗しき皿洗いの娘は他の3話と違って、ままならなさを感じない。

あえて探せば、自由と放埓を求めていた男がそれでいいのか?という、

落ち着かなさを感じてしまうくらいか。

どの作品も人の姿が立ち現れてくるような巧みさがあって面白かった。

久しぶりに『ドン・キホーテ』も読み返したくなってきた。

セルバンテス短篇集 (岩波文庫)

セルバンテス短篇集 (岩波文庫)