鑑賞記録:小津安二郎「麦秋」

28歳の女性の結婚話を軸に、ある家族の姿を描いた作品。

以下、だらだらと書くだけなので精緻な映画評を求めている方はお帰りください。

 

今日日、28歳で会社勤めで独身の女性など珍しくないけれど、

1951年当時の価値観の下では「売れ残り」と揶揄される対象です。

親も兄も我が家の最大の懸案事項みたいな感じで心配しているし。

今なら職場の上司が部下の女性に「売れ残り」なんて言えないでしょうが、

ともあれ、「売れ残り」とか言いつつ上司も心配してか縁談を持ってきます。

この縁談を良さそうな話じゃないかと家族も最初は喜ぶのですが、

途中で相手の年齢が42とわかって母親と義姉は戸惑いを見せます。

兄も贅沢は言えないというのですが、とにかく家族の心境は複雑です。

当の本人はというと、戦死した兄の友人だった男性との結婚を突然決めます。

しかし、これもまた家族を複雑な気持ちにさせるのです。

というのも、その男性には死別した妻との間の子供がいるということで、

28歳とはいえ初婚なのだから、何も子持ちの男性に嫁がなくてもというわけです。

まあ、義理の子供がいると先で苦労するんじゃないかという心配からですが。

しかも、男性は秋田への赴任が決まっていて、それもまた気がかりと。

なかなか家族から見て申し分のない相手というのはいないものですね。

 

後に本人が言うには、42歳まで独身でぷらぷらしていた男よりも、

子供がいる男性の方がむしろ信頼できるということですが、

恐らくは、戦死した兄の友人だったというのが大きいのだと思います。

面白いのは、この結婚は男性との間ではなく、

男性の母親との間で決めてしまったところでしょうか。

「あなたみたいな人にお嫁さんに来てほしかった」と言われて

「私でよければ」と応えて話が進んで、男性は事後承諾みたいな。

本人同士で恋愛感情が盛り上がって結婚を決めたわけではないのです。

後に友人から「恋ね」と冷やかされた時にも、女性は「恋」ではないと否定します。

戦死した兄の友人ということで、兄を通じての付き合いはあったわけですから、

その時点でお互いに好意はあったかもしれませんが、そこは括弧にとじられています。

 

また、女性の結婚が決まったところで、家族は大きく変わることになります。

これまでは、両親・長男家族・独身の娘の7人という大所帯でしたが、

娘は前述のように結婚して秋田へ行くことになりますし、長男は独立し、

両親は隠居して生まれ故郷に戻ることにし、家族は離れ離れになるのです。

娘の結婚というめでたいはずの出来事が、実はこれまでの家族の形を

崩す引き金になるというのは切ないものです。

お互いが別々に暮らすことについて語るとき、結婚を決めた女性が

こらえきれずに泣き出すシーンがあるのですが、

彼女は結婚しないことで、家族を一つにしている自覚があったのかもしれません。

父親が、戦死した息子の死を受け入れられないでいるように、

この家族は、どこかで変わらないことを願っていたのではないでしょうか。

 

それにしても、結婚が決まった後の友人との会話で「秋田なんかに行くの?」

みたいな感じのところは秋田県の人はどう感じるんでしょう。

秋田に行ったらもんぺをはくのよ?とか秋田の言葉なんかしゃべれるの?とか、

軽い秋田disが入ります。

まあ、東京の人間からしてみたら東京以外のところは皆僻地扱いでしょうから、

今回はたまたま秋田だっただけでしょうが。

 

ともかく、今日日云々と書きましたが、この結婚を巡る家族の話は

今でも興味深いと思います。

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