読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

読書記録「日本の中でたのしく暮らす」

現代短歌の歌集。2012年5月に出たもの。

永井祐の短歌は、友人に勧められて初めて知った。もう10年近く前のことだ。

当時印象に残ったのは次の3首。

あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな

パチンコ屋の上にある月 とおくとおく とおくとおくとおくとおく海鳴り

山手線とめる春雷 30才になれなかった者たちへスマイル

1首目は、主体の連想がそのまま沁み込んでくる感じがする。〈あの青い電車〉と視点を固定されたところで、

〈もしも〉の想像の中へと引き込まれていく。

2首目は、パチンコ屋という俗的なものとその上にある月、そこから〈とおくとおく〉

更に1字あけて〈とおくとおくとおくとおく〉離れて、〈海鳴り〉へと視覚から聴覚への変遷が面白い。

3首目は、これまた1字あけが面白い。春雷でとまる山手線から〈30才になれなかったものたち〉への跳躍。

今改めて歌集を読み返すと、心惹かれる歌は変わってくるけれど割愛する。

ちなみに表題「日本の中でたのしく暮らす」は次の歌の一節にもなっている。

 

日本の中でたのしく暮らす 道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさし入れる

この歌は、次の歌と通じるものがある。

 

ぼくの人生はおもしろい 18時半から1時間のお花見

 

 

永井祐の歌はどこまでも日常で、その日常にふと切れ目が生じて立ち止まったような感じを受ける。うまく言えないのだけれど。限られた世界に生きていて、それを否定するのではなく、それこそが自分の世界として受け止めている感覚がするのだ。

日本の中でたのしく暮らしている主体にとって人生はおもしろい。漢字で書かれる「楽しく」や「面白い」とは違うけれど、確かにたのしくおもしろい。絶望とか感傷とかいうのではない、世界との距離感が興味深い。

 

booknestのサービスが終了したから、歌集はどうなるんだろうと思ったけれど、

Amazonでの取り扱いは続いているようなので安心した。

日本の中でたのしく暮らす

日本の中でたのしく暮らす